~北山三村「住んでみたい」移住者インタビュー~

北山杉の木立とベンガラ塗の家々が立ち並ぶ中川学区。京都市内から中川に通い、週末限定の古民家レストラン「山の麺処」を営む店主の村上さんにお話を伺いました。

 

“思い出の家を、もう一度、人が集う場所に”

村上さんにとって中川とは、母方の祖父母が暮らす故郷です。夏休みには親戚と一緒に中川に泊まりに行き、盆踊りへ行ったり、川遊びをしたり、幼少期からの思い出が詰まった場所でもあります。そんな「おばあちゃんの家」は、代々中川で北山丸太のお商売を営む家系で、家業と共に長い歴史を刻んできました。今では村上さんの祖母が一人で暮らす築160年の趣ある古民家は、かつては囲炉裏のある居間が商談の場としても使われ、多くの人々が集い、にぎわっていたそうです。

京都市内の街中で暮らす村上さんが、なぜこのお家で「山の麺処」を始めたのでしょうか?きっかけは村上さんのご両親からの一言。「あの家を、何とか活かせへんかな?」そう言われ、今一度、中川のお家をじっくり訪ねることに。まずはとお家やお庭を掃除していると、子供の頃遊んでもらっていたご近所さんが「あんた、何しとんの?」と声を掛けてこられました。事情を話すと、いつの間にか地域の方々へ説明して下さっていて、次第に相談に乗ってくれる人や理解者が増えていったそうです。

北山杉の里 中川

北山杉の里 中川

“現代人に必要な、このきれいな空気と水を伝えたい。”

ファスティングカウンセラーの資格を持ち、美容と健康に関わるお仕事を本業としている村上さん。あらためて中川という地域を外から見た時に、京都の市街地から車で20分の距離に、豊かな水があり、庭には色鮮やかな草花や希少な植物までもが咲き誇っていました。「都会から近くて、こんなに水と空気が綺麗な場所は他にない!」と感じたそうです。「地域の中の人はそのよさに気づいていないかもしれないけど、現代の日本人にとって貴重なこの場所を、もっと伝えていきたいと思いました。」と決意が湧き上がってきたと言います。

中川はとても魅力的な地域だと思う一方で、外から来た人が集える場所が少ないことに気付きました。そこで、160年受け継がれた家やお庭をそのままの姿で、再びお客様をお招きできる場所にしようと、美容と健康の知識や地域内外のご縁を活かしながら「山の麺処」をオープンしました。

 

「山の麺処」縁側とお食事

「山の麺処」縁側とお食事

“全国から人が訪れる「山の麺処」”

「山の麺処」は、体にやさしい雑穀麺を味わうレストラン。まずは囲炉裏で焼いた野菜から味わう、無添加無着色のお食事です。料理と一緒に登場する、北山杉の絵が描かれた湯呑みは、このお家で昔からお客様用に使われていた食器をそのまま利用しています。古民家の縁側から池と緑が美しいお庭を眺めていると、都会とは違う時間が流れているかのようで、いくらでも時が過ぎてしまいそうです。

ここに訪れる人は京都市内からはもちろんのこと、大阪、東京、遠くは北海道からのお客様もあるそうです。「20年前に見た北山杉の景色を妻にも見せたくて、やってきました。」という方や、最近では京都トレイルのコースとして中川を訪れ、立ち寄るお客様も増えているとのこと。中川の自然や美味しい食事を求めて“わざわざ来る人気店”になりつつあります。サイクリングに来る方のためにバイクスタンドを置いたり、専用メニューを開発したりと、まだまだ変化を続けています。

古民家レストラン「山の麺処」

北山杉のバイクスタンド

”地域の方々の支えや理解があってこそ”

昔ながらの美しい風景が残る中川ですが、この場所でお店を開くにはご苦労もあったそうです。まず、これまで集落には飲食店が一件もなく、前例がなかったことから、開業に取り付けるまでには様々な規制や制約についても自分で調べて対応しなければなりませんでした。また広い古民家の家の中やお庭を、お客様を迎える場所に整えるのも大仕事でした。

今でも中川では、景観を守るために大々的に看板を上げられないといった課題もあります。そのためお店に来る途中で道に迷ってしまうお客様もいるそうですが、そんな時は中川の地域の方々が道案内して下さっているそうです。「私は地域の方をすべて知っている訳ではないので、どなたが案内してくださったのか分からない時もあるのですが、私がお顔を知る以上に、中川の方が見守って支えてくれているのだと感じています。」と話す村上さん。

 

古民家で開催されたイベント「美骨盤yoga」

古民家で開催されたイベント「美骨盤yoga」

“一つずつ、止まっていることを動かしたい。”

「私が幼い頃、お盆には浴衣を着て神社まで歩いて行った思い出があります。そんな中川の夏祭りや御神輿、盆踊りも、今では見られない光景となってしまいました。」住民が減り高齢化が進む中で、かつてのような規模でお祭りを維持することが難しくなっているのです。「でも発想を換えて、外の人に御神輿を担いでもらう体験をしたら、喜ばれるかもしれません。お祭りは必ずしも住民だけでするものではないでしょう?」

現在、中川では自治会を中心に、休校中の小学校を利用した合宿やまちあるきなど、地域の外と交流する取り組みを進めています。そんな活動も村上さんは応援していきたいと語ります。「自然も昔からの文化や風習も、大事に守られてきたから今の中川が残っています。一方で、変えるべきところは変えていかないと、これからは守ることが難しくなるのではと感じています。人の活気が戻れば、地域の活性にも繋がると思うんです。」

今後は、地域内外から人が集まるお祭りを開催したいと意気込む村上さん。お店に来るだけではなく、中川の町を歩いて、ここで過ごす時間をまるごと味わってもらうことを目指しています。「中川の人にとって当たり前の日常は、外から通う私にとって、素晴らしい非日常に溢れています。まずは外の人にその良さを知ってもらうことで、地域の人にも“ここはエエトコなんやなぁ”と気づいてもらえれば。」そんな想いで、完全な住民でもソトモノでもない村上さんがつなぎ役となって、多くの人を中川に呼び込んでいます。

 

■村上 貴子(むらかみ たかこ)さんプロフィール

1975年京都生まれ。京都市在住。ファスティングカウンセラー。美容と健康分野でのカウンセラーを本業にしながら、土日祝日は自らのルーツである中川学区に通い「山の麺処」を運営。

 

「山の麺処」facebookページ https://www.facebook.com/yamanomendokoro